奈須野雪葉さん作 : コカトリスオナニー (1)

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膨大な…数を聞いても信じられない程膨大な書物が収められた、王国の図書館。
一人の貧乏な少女魔術師は、その図書館のかなり奥に居た。
理由は単純に、本を読みたいが…それを買うお金が無い。
だから、無料(ここ重要)で読めるこの場所に『私』はいた。
(…ふぅ、とりあえず、こんなもんかな……)
『精霊魔法』
…の、炎の魔術をある程度暗記した後、私は本を閉じる。
音の無い静寂な空間。非常に落ち着ける上、『無料で』(ここ重要)本を読める空間。
図書館の、一階一番奥魔法書庫置き場は、殆ど誰も居ない場所。
ここは、私『エリン』の一番のお気に入りの場所だ。
出来る事なら永遠にいたいとは思う。
けど…、そういうわけにはいかない。
冒頭でも述べた通り、私は非常に貧乏。…正直、その日暮らしの生活の毎日である。
更に両親も既におらず、金銭的に頼れる親戚や友人もいない。
(……ああん!も~こんな時間だし…、さっさとギルドに行かないと、仕事が無くなってしまう!)
だから私は、自分で働いてお金を稼がないと駄目なのである。
…すぐさま本を直し、そしてすぐさま
(ずっとここに居たいんだけどなぁ…)
私はそう思いながらも、図書館の外に出る準備を始めた。
別にここにずっと居るという選択肢も無い事は無いが、流石に、図書館で美少女の餓死者発見という数日後のニュースになるのは御免だ。
いや、図書館で死にたいとはちょっとだけ思ったりはするけど…まぁ、乙女心は複雑なのである。
理由としては、知りたい事は沢山あるから本を読む。
…というのもある事はあるけど、なんとなく『本に囲まれている』という事実自体が気持ち良い。
だから、もっとここにいたい。
だから、ずっとここにいたい。
けど、ずっとは無理である。
…別に居てても問題は無いけど、やっぱり死体になって墓の下に埋められたくは無いし。
何かモノを食べなければヒトは死んでしまう。
そしてそのモノを得るためには、働いてお金を稼がないと駄目なのである。
それでも、ずっとここにいたいと『定期的』に思ってしまう。
依存に近い事は自分でも解っている。…私は、静かな場所と本に囲まれたここが、とても大好きなのである。
(……まぁ、いつかはここで働く事にするとして…)
気持ちの整理を付ける。
また来たくなったときに来れば良い、そして本を読んで静寂を楽しめば良い。
だから私は、次にここに来れるように、生きる為に、図書館の出口から外に出ようとした。
…刹那だった。
「…ぁ… ぁんぁあ…!」
この図書館の静寂を切り裂く、明らかに不釣合いな『女の声』が聞こえてきたのは。
『普通』だとこんな場所で聞くはずも無い、何か凄い『変な』…泣き声に近い声が、私の耳に入ってくる。
普通の泣き声とはちょっとトーンが違うが…、まぁ、泣いているのだろう。うん。
こういうところに子供が連れてこられた場合は大体そのような行動を取る。退屈だからだ。
私は
(子供をつれてこないでよ…)
と、顔も知らない『泣き声』を恨みつつも
…図書館の静寂よりも仕事の方が大切な私は、無視して外に行こうと足を踏み出す。
…が、そう思った刹那、子供っぽい声の音量が更にでかくなったのである。
「ああ!!…良い……す… ごく…ぁん!」
追い討ちのように聞こえてくる声は、私の仕事を間接的に潰してくれた。
我慢ならない。せっかくの静寂の場所を良くも潰してくれたわね…。
そういう子供にはおしおきが必要なのである。
(…仕事は明日にするとしよう…、我慢ならないわ)
私は…今日のお仕事は瞬時に諦め、すぐに図書館のスタッフを探し始めた。
(とりあえず誰かに注意してもらいたいけど…)
最初は偉い人…図書館の管理人とかスタッフに、声をどうにかしてもらおうと思ってたけど、誰もいなかった。
次に、大人の人に頼もうと思ったけど、今日は平日のしかも昼下がり、大人どころか、図書館内の客は、私と…廊下とかにある大量の石像だけだった。
本来司書さんがいる場所にまで石像があるという事は、これは多分『カカシ』みたいなもんだろう。
全く、金持ちの考える事は解らない。
だから、でしゃばりすぎかとは思うけど…私が直接『注意』する事にした。
…自分の短気な部分は自覚しながら、とりあえず愛用の杖を構え、そして声が聞こえてくる場所にへと私は走っていった。
…3分後、私はとっても後悔していた。
理由は、とっても広いこの図書館。声の浸透は早いけど、実際に歩いて全館を見渡すにはそれなりの時間がかかるからだ。
事実、私のいた部屋から、『声』のする部屋の前まで移動だけでも、既に10分近経過している。
が、それでも『泣き声』は収まらない…と言うより悪化してる、と言ったほうが良いかも知れない。。
(…何が不快なのよ、変な声で泣いて…!)
私は、…静かに怒っていた。
3階の奥の部屋。声はここから聞こえる。
(…他にヒトはいないみたいね…、仕方ない、図書館の平和を守る為よ)
何が『平和を守る為』なのかは私にもわからない。結局は自分の不快を解消したいだけなのだが…。
まぁ、図書館で大声を出す事は実際に禁止されている事だから、ちょっと注意するくらいなら別に良いだろう。
そう思いながら、私は声の聞こえる部屋の扉を開ける。
しかし、中で声を出していた少女は…、私が想像していたものとはかなり違う状況に陥っていた。
「…ん……ぁん…」
顔を赤くして、息を荒くし、涎を垂らしながら本を読んでいる、『緑色の天使』のような少女。
…少女といっても、年齢は私と同じくらいだろう。とにかく、羽毛に包まれた少女が其処にいたのである。
子供の姿を予測していた私にとってはそれだけでもサプライズなのだが…、驚くべき場所はまだあった。
「……ぁ…!」
『鳥少女』が、変な声を上げながら
……え~っと、『おしっ○が出る場所』に、指を突っ込んでいるのである。
泣いてはいないが…苦しいのか気持ち良いのか解らない表情をしている。
彼女が何をしているのかは解らない…が、人(というか私)に迷惑を掛けている事には間違いない。
私はとりあえず、注意する為に鳥少女に近付こうとした。
(…五月蝿いですよ、で良いかな?怒りすぎるとこっちもおせっかいになっちゃうし)
そう考えながら、私は右足を前に出して、ゆっくり歩こうと『した』
そのとき始めて、自分の身体に起こっている異変に気付く。
…気付いたときには、既に『手遅れ』だったが…。
(…っ! あ アレ……?)
異変…足が動かないと言う、奇妙な現象。
何度動かそうとしても、…私の細い足は『微動』たりしない。
(…!何で動かないのよ、私の右足!!)
私はすぐさま何が起こっているか把握しようと、身体を揺らせて、ローブのスリットから自分の足を出す。
…そして、自分の足をすぐにローブの中に戻す。
凄い『嫌な』『信じたくないもの』が見えた気がするが、とりあえず気にしない事にした。
見間違いな事を祈りつつ今の状況を説明するとしたら、私の足は『肌色』をしていなかった
……『灰色』に、染まっていた…なんて
一瞬何の冗談かと苦笑しかけた。
が、笑っても狂っても意味は無いので、とりあえず平静を保っておいた。
自分の中でいくら否定し、いくら拒否しても
『私の足が、未来に出来るであろう石像の一部分になった』
と言う事実は変わらないからだ。…認めたくは無いけど。
(…まさか、あの『少女』の声が原因?)。
私はすぐさま原因を追究し…、あくまで予測だが、犯人を特定する。
緑色の羽根の天使のような…良く見れば羽毛だらけの少女。
羽根が緑をしている種族なんてそうはいないが…、私は無い知識を総動員して、考える。
「……あ!」
声を上げる、刹那、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
少女の『正体』に、私は…これも確定ではないが、気付いた。
(コカトリス…
見るものすべてを石にする化け物鶏!)
…間違ってないよね?
見たもの全てか、石化するガスを吐き出すか、その臭い匂いを嗅ぐと鼻から硬直していくかは忘れたけど、
とりあえず、そんなモンスター …で、ある…と思う。かなりうろ覚えだが、人を石にする魔物…という意味では正しい知識だろう。
…声を聞いたら石になるなんて言うのは聞いた事はないけど、向こうは人間の常識の通じない『魔物』だ。決して考えられない事では無い。
目の前にいる少女は羽毛に包まれているとは言え人間型だから、おそらくハーフか何か。
鳥類と哺乳類が子供を作るわけねーだろ…と思うかもしれないが、そんな事言う人はハーピーを見ておいて欲しい。
とか考えている私に、石化が痛みを与える。
「っ… っあ!」
悲鳴を一瞬上げる。
…が、強烈な、電流のような痛みが走った刹那、私の太ももは『私のもの』じゃなくなった。
そしてそのまま、誰の所有物でも無くなった石の足は、私の生身にバランスを崩し
「うわ…わわ!!」
そして重力に釣られて私を地面に叩き付けるという結果をもたらした。
うつ伏せになってしまった私に、しかしコカトリスの少女は気付かない。
彼女は…ちょっと恥ずかしそうな表情で本を見、そして相変わらず指を…アソコに突っ込んでいる。
(…なんであんな事するんだろうか?)
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