【翻訳】Final Statue Fantasy: part 1 #2

■■ 地下洞窟 ■■

「クソっ、わけがわからん。一体どこなんだここは?というか、この服、どうなってるんだ!」元海賊の少女——現タイクーン国第一王女であるファリスが荒っぽくまくしたてる。彼女はざっと付近に観察した後、はたと気づいたのか、自分の服装に目をとめた。

魔法剣士の装束は、彼女が所持する衣装の中でもとりわけ女性らしい艶やかさを備えていた。魔法剣は大変強力なアビリティである。しかしその能力を引き出す装束があまりに扇情的であったため、この男勝りな少女はいつも頭を抱えていた。

「うう、姉さんはまだいいわ…。私なんてこんな格好よ?は、恥ずかしい…」ぶつぶつと文句を言う姉に、タイクーン国第二王女のレナが口を挟む。彼女もまた自分の姿に困惑していた。

髪を飾る一輪の白薔薇。深いスリットの入ったドレス。大胆に露出した太もも。大きく開いた胸元。踊り子のジョブは卓抜した特技を持つものの、その格好——布面積の少なさがレナの悩みの種であった。

「そうかなぁ、みんな可愛いとおもうけど」三人目の少女、バル城の王女——クルルは快活に声を上げる。彼女は青い忍者装束に身を包んでいた。ポニーテールにした金髪に手裏剣を模したヘアピンが添えられている。彼女は最年少であったが、この中では最も落ち着いているようだ。

「フン、海賊とはな、恐怖の象徴のことだ!可愛い?そんな姿で海にでられるかよ!」ファリスが声を荒げると、妹が呆れ気味に言う。「ちょ、ちょっと姉さん?あなたお姫様なのよ?もう少し女の子らしいこと言えないのかしら…」

「うるさいなあ、おれの海賊魂は不滅なんだよ!お前こそ、自分の姿をよく見てみろよ。”お姫様”が、そんな派手な格好するか?海賊だって同じさ。似合わない女の服なん着ないの!」姉妹の不毛な口論は終わる気配がない。

クルルは一人、周囲を調べていた。ここは洞窟のようだ。彼女たちのいる場所を囲むように、対岸に向かって湖が広がっている。その奥には洞窟の出口が大きく口を開けていた。すぐ近くに小さな漕ぎ船がポツリと停まっている。湖を渡るには、これを使うしかないようだ。

「海賊さま、あの船を使えば、この洞窟から出られるみたいなのです。どうかわたし達を、向こう岸まで連れて行ってくれませんか…?」クルルの懇願に、元海賊少女が返事をする。「ふーんあれか。だいぶボロいけど、まあ大丈夫だろう。嗚呼、久しぶりの航海。海賊の血が騒ぐなぁ…!」

「はいはい…じゃあ姉さん、はやくボードを出しましょう。どうもこの場所、好きになれないわ」三人は漕ぎ船に乗り込む。ファリスは櫂を手に取り、対岸に向かって漕ぎ始めた。水面からはいくつもの岩が突き出ていたため、彼女は慎重に舵を切った。

湖の中ほどに差し掛かると、彼女たちの視界に奇妙な風景が映る。水上へ、小島ほどの大きさがある岩石がせり出している。とりわけ彼女たちの目を引いたのは、その岩棚に並んでいる物であった。そこには数多くの石像が蓄積されていたのだ。

「不気味ね…どうしてあんな沢山石像が?悪い予感がするわ。姉さん、急ぎましょう」レナが不安げに顔をしかめる。「言われなくてもやってるよ。さっさと進むぞ。それに——」ファリスの言葉は途中で遮られた。SPLASHHHHH!その瞬間、水が爆ぜるけたたましい騒音が大気を揺らした。

突如、湖の中から奇怪なシルエット——ヌラヌラと粘液に濡れた巨大な何が飛び出した。濃い闇の中を何かが蠢いている。一呼吸置いて、三人はようやくその正体を看破した。それは醜悪にのたうつ、一本の触手だった。

「わわっ、な、何アレ!」「はっ、こんな雑魚、相手にならないぜ。細切れにしてやる!」ファリスが短く詠唱する。剣をかざすとその刀身がバチバチと帯電をはじめた。レナは短剣を抜くと鋭く構えた。踊り子にとって安定しない小舟の足場は相性が最悪だった。一方、クルルは… 

「や、やだぁっ。このっ…離してよぉ…っ!レナっ!ファリスっ!助けてぇ!!」姉妹が同時に振り返る。いつの間にか、ボート後方で新たな触手が身をもたげていた。それはクルルの身体をすくいあげると、その幼い胴体にきつく締め上げ、宙づりにしてしまった。

クルルを激しく暴れ、忍者刀を突き立てもしたが、触手の拘束が緩むことはなかった。少女の抵抗は、徐々にぎこちない動きへと変わっていく。触手の巻き付いた部分は白く変色をはじめる。それは胸の辺りから、ゆっくりと、少女の全身へと広がりつつあった。

姉妹は恐怖とともにその光景を目撃していた。「うそ…じゃあさっきの石像はやっぱり…」「チッ。ああ、この怪物に捕まったんだろう。クルルと同じように」「早く助けなきゃ!」「湖に飛び込むか?落ち着け。それが奴の狙いだ。チャンスを待つしかない」 

クルルの身体が石化していく——その恐ろしい課程を、レナとファリスはただ見ていることしかできなかった。胴からはじまった石化は時間をかけて身体を舐めあげると、足へ、腕へとその魔手を伸ばす。忍者刀を握る手のひらは石質に硬化し、クルルの抵抗を永久に封じた。

石化の波は、とうとうクルルの顔を浸食していく。少女は歯を食いしばり、恐怖に対し最後まで抵抗したが、その努力が報われることはなかった。驚愕に見開かれた青い瞳が、冷たく、硬い、無機質な材質へと変わっていく。ポニーテールの毛先まで白く浸食され、クルルは完全にその動きを止めた。

「やだよ、クルル…こんなの信じないから…」レナの顔が悲しみに歪む。「おい、泣くのは後回しだ。あのクソ触手、まだこっちを狙ってやがる!」触手はクルルを抱えると、岩の小島に——石像が並ぶその場所へと、出来上がったばかりの作品を静かに置いた。

魔物は最後に、クルルの全身を触手で覆うと力を込め、彼女の着ていた忍者装束を石の欠片に砕いた。服装という殻がはがされ、体温の失せた、未成熟な肢体が外気に晒される。ひとしきり動作を終えると、触手は次の獲物を求め、その身体を大きくしならせた。

「来てみろ!おれを捕まえられると思うなよ!」ファリスの魔法剣が閃く。小舟に迫る直前で、粘液にまみれた触手はあっけなく両断された。剣に込められた魔力によって、斬られた箇所を中心に触手の大半が瞬時に炭化する。致命的な反撃に合い、魔物は水底へと後退をはじめた。

レナとファリスは抜け目なく、5分ほど警戒を続けた。やがて魔物の気配が完全に失せたことが分かると、姉妹は勝利を確信した。「やっぱりダメだわ。この場所、変身できないみたい…」「そうらしいな。ちっ、どこかに金の針でも落ちてないのか」二人は石化した仲間について思案する。

「せめて、岸まで運ばないと…!」「馬鹿言え。あのクルルを船に乗せてみろ。あっという間に沈没して、全員クソ触手の餌食になるのがオチだ」石像として佇むクルルを、レナは寂しげに見つめた。姉の言っていることは間違っていない。今はどうすることもできないのだ。

ボートは対岸にたどり着いた。岸に小舟を寄せ、ゴツゴツとした地面に足を下ろす。彼女たちの目の前には、洞窟の出口が広がっている。姉妹は互いに寄り添い、出口へと続く道を歩き始めた。その時、いままで一度も考えたことのない、ある種の特別な願望が少女達の脳内を満たした。

「姉さん…もし私が石になっても…ずっと、側にいてくれる…?」「はっ、当たり前だ。見捨てるわけないだろう。おれたちは、やっと巡り会えた…かけがえのない姉妹なんだから…」「あぁ…ファリス…」「レナ…愛してるよ…」

暗く、静かな洞窟の陰で。二人の姉妹は互いの腰に手を回し、きつく肌を触れ合わせた。熱のこもった喘ぎが、微かに口から漏れる。二人はしばし見つめ合い、やがて唇を重ねた。洞窟に秘された姉妹たちの情事。小島に佇む石像達だけが、その光景を虚ろな瞳に映していた。

■■ 幕間 ■■

水晶玉の表面が波打つと映像は途絶えた。魔王アザラは満足げに首を振る。「ふんふん、姉妹愛ね…悪くないわ」主から賞賛をうけ、従者は喜色を浮かべる。「ええ、ご主人様!禁断の愛。その顛末以上に興味深い物はそうそうございませんわ」

「まあ、私にとって”愛”とは力尽くで奪い取るものだけど。お前の解釈にも一理あるわ」「ホホ、もちろんでございます。それでは、次のゲストを迎えましょう」ムラサキは上品に笑うと、水晶玉を操作する。「楽しみね」そういうとアザラは映像へと意識を向けた。

つづく Final Statue Fantasy: part 1 #3

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