【翻訳】Final Statue Fantasy: part 2 #3

■■ 幕間 ■■

「えっ?キスだけなの?ほかには?」意外な結末にアザラは目を丸くする。「お前の魔法、うまくいってないみたいね、サキュバス」「ホホホ。逆でございます、ご主人様。女の直感とは恐ろしいもの。今回わたくしの出番はございませんでした」従者がはっきりと答えた。

「わたくしが干渉するまでもなく、あの二人は自分達の意思で口づけを交わしたのです」「はん。天然物ね。まあ悪くはないわ。でも私を愉しませるのがお前の役目でしょう?あの二人の愛が育つまでなんて、私は待つつもりはないわ」魔王は不満げだ。

「ええ。でもご主人様。あの二人には次のステージを用意しております。運命からは逃れられません。あの二人が絶望に染まる姿は、きっとご主人様のお口にあうと思われます」「ふうん、わかったわ。見ていても退屈だし、早く次に進みなさい」

「承知しました。それでは水晶玉を——申し訳ございません、連絡が入りました……」サキュバスは小型の水晶玉を取り出し覗き込んだ。表面に映像が走る。若草色のショートヘア。不安げな表情をした少女が映し出された。「どうしたの、ミドリ?いまは余興の最中よ」

「あっ、姉様、繋がって良かった。ええと、ちょっと問題があって。前回のステージで生き残った娘達。次の出番がくるまで好きにさせとけって言ったよね?それが……見えるかな?」緑髪の少女は水晶玉を掴むと自分の背後へと向けた。

映像が変わる。リディアとポロム——第一ステージを生き残った二人が、地面に大の字で横たわっていた。全身を黄色い液体に絡め取られている。まるで琥珀に取り込まれた虫のように、硬化した液体が彼女達の身体の自由を奪っているようだ。

頭上ではハチの群れと巨大な蜂の巣があった。巣からは蜂蜜が泡を吹いている。二人の少女はこの甘ったるい奇妙な罠の犠牲者だった。「これ、助け出すのに時間がかかりそうなの。まあまだマシなやつだけど……」

ミドリは一度言葉を切って、続けた。「でも、もっとやばいトラップだってこの城にはあるでしょう?ご主人様が見ていないときにそんなのに引っかかっちゃったら、姉様の準備した宴が台無しになっちゃうよ!」

妹の報告にムラサキは動揺を隠した。そして必要な判断を下す。「そうね……わたくしのミスだわ。ミドリ。残りの娘達だけど、余計なトラブルが起こらないように、一箇所に集めてちょうだい。丁重にね。できる?」

「まかせて姉様。いい方法があるわ。紹介するね。この子は——」映像が激しくぶれる。突然途絶えた。そしてすぐに回復する。今度は一人の娘が映っていた。純白の肌。空色の髪。吐息には混ざった雪の結晶がキラキラと輝いている。純白の娘が口を開いた。

「どうもムラサキさん!聞こえてる?あたしがあの娘達を追いかけて、捕まえて、全員セクシーなアイスキャンディーに変えちゃいますから!もちろんあとで元戻しますよ?それでいいですよね?」純白の娘は快活にまくし立てた。

「ええと……コオリちゃん、よね?氷の魔女の。あなたにまかせればこの事態を解決してくれる、と受け取っていいのかしら?」純白の娘が水晶玉に向け口を開きかける。しかしそれはミドリによって遮られた。二人の間には意見の相違があるようだ。互いに水晶玉を取り合っている。

ムラサキはため息をつくと映像を切った。主へと振り返った顔には自責の念が浮かんでいた。「も、申し訳ございません。妹のミドリですが、頭は良いのものの機転がきかなくてですね……。加えて、あの友人。氷像の話しになると夢中になってしまいまして……」

魔王は玉座の上でじっと座っていた。その表情は厳しい。冷たい視線を従者へと向けている。その態度はサキュバスを完全に萎縮させた。釈明を口にすることすら躊躇われる。従者は主の言葉を待った。身を削るような重い沈黙が流れた。

しばらくして、魔王は一つため息をつくと、背もたれへと身を任せた。「まあいいわ。最善を尽くしたところで報われないこともあるしね。それにしても、あの子、本当にお前の妹なの?全然似ていないのね」

主からの質問にムラサキは一瞬言葉を失った。従者として五百年間尽くしてきたが、彼女の私生活や出生について主が少しでも気にかけたことは一度もなかった。主が興味を向けている。その事実に従者は落ち着きを取り戻した。

「ええと、はい、ご主人様……わたくし達姉妹はサキュバスの中でも希少種です。人間の女と交わって繁殖するのです。わたくし達は同じサキュバスを親として、それぞれ別の人間の母親から生まれました……」

「ふうん。なるほどね。お前が女しか誘惑しないのはそういう理由ね。興味深い種族だわ。高位の存在はね、そういう嗜好を持っているものなの」主の言葉に、従者は感慨深く頷いた。「はい。あなた様にお仕えしたとき、わたくしもそう感じました」

「ほんとうに五百年も経ったかしら?」「経ちました。あなた様にお仕えした全ての瞬間がわたくしの誇りですわ」「よくやったわね、お前。そうそう。さっきは妹と面白そうな会話をしていたわね。私たちのゲストだけど、あの氷の魔女が全員を氷漬けにするのよね?まずはそれが見たいわ」

「えっ?はい、かしこまりました。そう仰るのなら、すぐにでもご用意いたします」従者は巨大な水晶玉に手をかざすと複雑な軌跡を描き始めた。映像が変わる。蜂蜜に捕らわれた二人の娘が映った。

コオリが大量の水を生み出し、その激流によって、硬化した粘液を洗い流している。その試みは成功したようだ。蜂蜜の牢獄から解放された二人が身じろぎする。しかし息つく暇なく、コオリは部屋にあふれた水流を一瞬で凍てつかせた。

不運な二人の娘は、今度は溶けることのない氷塊の中に捕らわれてしまった。「はっ!古典的な方法ね!」魔王がクスクスと笑う。「助けては、また捕らえる。面白いわ。他の娘達の姿も見れるのよね?」「もちろんです。すぐにご覧いただけますわ……」

* * *

「チッ、めんどうなやつ。まあおれの敵じゃなかったな!」ファリスが勝利の笑みを浮かべる。足下にはたったいま斬り捨てたバジリスクの死骸が転がっている。その背後には踊りを終えたレナがいる。ダンスの酷使によって彼女の全身は汗でぐっしょりと濡れていた。

その時。何の前触れもなくまばゆい閃光が室内を満たした。二つの人影が現れる。一つは緑髪のサキュバスだ。ショートパンツ姿で、袖がない上着を来ている。豊満なバストの下乳が露わになっていた。

その隣にはアイスブルーのドレスに身を包んだ純白の肌の娘が立っている。白い娘が手をかざすと、そこから猛烈な吹雪が放たれる。それは一瞬でファリスとレナを飲み込んだ。

「誰だおまえ達——」SWOOSH!吹雪は一切の抵抗を許さなかった。何の反応も出来ないまま氷像と化す姉妹。その身体はピクリとも動かない。「あ〜ん、美味しそうなアイスキャンディー!少しだけ味見しても、いいよね?」

「まだダメ」ミドリはコオリの額を軽く小突く。「その前に、他の娘たちも処理しないとね」「はいはい、わかりましたぁ」凍結した姉妹に物欲しそうな視線を向けつつ、コオリが嘆息する。「次、いきましょ」

* * *

「こっ、こんな所で負けられないんだから!」剣を握りなおし、ティナが叫んだ。目の前では、数え切れないほどのスライムがのたうっている。彼女達は完全に包囲されていた。背中合わせに立つセリスからは、若干の疲労がうかがえる。

「持ちこたえられそう?気をつけて。もしスライムが肌に触れたら……」「教えてあげる!肌に触れたら石化するのよ!」突如、見知らぬ声が響く。いつの間にか二人の頭上に人影が現れていた。翼をバタバタとはためかせている。ミドリだ。

「スライム達はね、あなたたちを裸にしちゃうわよ」サキュバスの足にしがみつきながらコオリが付け加える。その手にはすでに魔力が渦巻いていた。コオリによって生み出された氷柱が、二人の戦士の足下から姿を現す。

「えっ?今度は何——」セリスの不平は中断された。地面から突き出した氷柱が急速に成長する。ティナとセリスは逃げるまもなく、円柱状の氷の牢獄に捕らわれてしまった。身を守ろうと剣を引き寄せた姿のまま、その躍動感が失われることはなかった。

コオリがもう片方の手を掲げると、室内を冷気が蹂躙しスライム達を氷像へと変えた。「ミドリ、寒かった?でもゲスト達が石化する前に終わったよ!」コオリは顔を上げミドリを見つめる。「次は誰かな?」

* * *

「どっちに行こう?」ティファは思案していた。通路が二本に分かれていた。彼女は先に進むために、名残惜しみながらも、黄金化した二人の仲間を宝物庫に残してきていた。

「心配しなくていいよ。一緒にいこうね!」突然、背後から1本の手が伸びると、ティファの胸を揉みしだいた。ティファは身をよじる。しかし氷の魔力は胸から全身へと一瞬で浸食し、ティファを氷像へと変えた。もう片方の手が伸びる。それはティファの上着に触れ、氷の欠片へ変えた。

あっという間に豊満な乳房が露わになる。「わっ、服が壊れちゃったね!まずいかな〜?」ティファの乳房をもみながら、コオリがわざとらしくつぶやく。手からは冷気が放出され続け、胸に生えた氷柱の成長を促している。

「そうでもないよ。妹が服作り得意なの。興奮しすぎなきゃいいけど……。それより、次のラウンドがはじまる前に、この娘達を解凍できるようにしておかないと」「はーい。それよりも、あとはナイトとプリンセスだけかな。気になるよね?早く行こう!」

* * *

玉座の間では、魔王が嬉々としてその光景を眺めていた。いとも容易く氷漬けにされる戦士達。魔王はしばしば、戦士達に生き残るためのチャンスを与える。しかし本当に望むのは、挑戦者が無残に敗北する姿であった。

水晶玉にはアグリアスとオリヴィアが映し出されている。しかしすでに、巨大な氷のキューブの中に捕らわれてしまっていた。「あの子、いい仕事するじゃない。頭は足りていないけれど、術者としては優秀ね」

「ええ、そう思いますわ。彼女の魔法は一流。わたくしでも骨の折れる相手です。妹はうまく手綱をとっているようですね。」ムラサキが咳払いして続ける。「ところで、次の挑戦者の準備が整いました。ご覧になりますか?」

「ええ、もちろん。次は何で楽しませてくれるの?」魔王は玉座から腰を浮かせ、食い入るように水晶玉を見つめた。その瞳は喜色で満ちている。背後では従者がひっそりと安堵のため息を漏らしていた。宴は無事、元のレールにもどった。

水晶玉の表面が揺れると、三人の新たな犠牲者達の姿が映し出された。

つづく Final Statue Fantasy: part 3 #1

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